貞享・元禄年間頃(1684~1704)、江戸回米の船問屋として主導権を握っていた伊能茂左衛門は、回漕業のほかに米穀・油類・薪炭販売と醤油醸造を営んだ。伊能家の醤油醸造の創始ははっきりしないが、寛文から元禄頃にいたる同家の目録に、米・大麦のほかに大豆・塩を仕込み、米穀商としての商行為の範囲を示すと同時に、赤穂等の塩の輸入と多量の真木の記載は、醤油醸造の作業を想像させるのに十分である。
伊能家の明確な醤油醸造関係の記録は、享保14年(1729)をもって初めてとするが、これによるとすでに醤油醸造を一企業として経営していることが明らかである。