はじめに
胃カメラの後や健康診断・人間ドックを受けた後に『あなたの胃はピロリ菌に感染しています。ピロリ菌の除菌治療をお勧めします』 こんな説明を受けられた方も、いらっしゃるかと思います。
今回は、ピロリ菌と胃の病気についてご紹介します。
ー消化器内科 部長 齊藤 将喜ー
ピロリ菌とは
胃からは消化酵素であるペプシンと塩酸が分泌され、胃の中は強い酸性に保たれています。そのような胃の中にも、多数の常在細菌が棲みついています。その中で最も有名な細菌が『ヘリコバクター・ピロリ』、通称『ピロリ菌』です。
ピロリ菌は急性胃炎や慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、さらには胃がんやMALTリンパ腫など、様々な病気の発症に関連しています。
また、ほとんどの方が幼少期に感染するといわれていますが、近年は衛生環境が整備されてきており、若い年代ほどピロリ菌感染率は低くなっています。
ピロリ菌除菌の適応疾患
ピロリ菌除菌が保険適用となるのは、下記の疾患です。
●胃十二指腸潰瘍
●胃MALTリンパ腫
●特発性血小板減少性紫斑病
●早期胃がんに対する内視鏡治療後
●ピロリ胃炎
ピロリ菌感染の診断と治療
1 診断
ピロリ菌の治療の前に、まずピロリ菌の感染を確認する必要があります。ピロリ菌感染検査は、内視鏡検査により採取した生検組織を用いる『侵襲的検査法』と、内視鏡検査を用いず便や尿、血液や呼気を用いる『非侵襲的検査』に分けられます。
侵襲的検査法
迅速ウレアーゼ法
組織鏡検法
培養法
非侵襲的検査法
尿素呼気試験
抗へリコバクター・ピロリ抗体
便中ピロリ抗原検査
2 治療
ピロリ菌感染が確認されたら、内服薬による除菌治療を行います。抗菌薬2種類とプロトンポンプ阻害薬(胃酸の働きを抑える薬)の3種類の薬を1週間内服します。
最初に行われる一次除菌治療では約85%の患者さんが成功するといわれています。除菌が成功すれば、これで治療は完了です。
一次除菌が成功しなかった場合には、二次除菌を行います。二次除菌では、抗菌薬を変更し、再度1週間の内服治療を行います。二次除菌まで行うと、約95%の患者さんで除菌が成功します。
三次除菌については、まだ一定の見解が得られておらず、自費診療となっています。
3 判定
判定は除菌治療後4週間以上あけたうえで、尿素呼気試験または便中ピロリ抗原検査を行って判断します。通常、一度除菌治療に成功すると、再感染はほとんどないといわれています。
1 診断
▼
2 除菌(1週間)
▼
4週間後
▼
3 判定
▼
完了!
ピロリ菌感染のリスク
ピロリ菌感染は胃がんの原因であり、除菌治療により胃がんにかかる確率を減らすことができます。しかし、近年、ピロリ菌に全く関係なく発生するピロリ菌陰性胃がんや、ピロリ菌の除菌に成功したことがある方に発生する除菌後胃がんの存在が明らかになっています。よって、定期的な胃の検診を受けることがとても大切です。
胃がんの内視鏡治療について
がんは通常粘膜から発生し、徐々に深部に広がっていきます。胃がんは深達度によって早期がんと進行がんに分けられます。早期がんのなかでも、粘膜内に留まっているものの多くは転移しておらず、内視鏡治療の適応となります。現在行われている内視鏡治療は内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)と呼ばれ、2006年に保険適用され、現在国内で広く行われている標準治療です。特別な電気メスを使用し、粘膜内の腫瘍を含めて、粘膜下層を?がしていく治療です。
おわりに
以上のように、ピロリ菌を除菌することで胃がんなどの病気のリスクを減らすことができ、また定期的に胃の検診を行うことで、胃がんなどの病気の早期発見につながるといわれています。早期に発見された胃がんは内視鏡治療の適応になることも多く、体への負担が少なく治療することが可能です。ご自身でピロリ菌感染が気になった場合には人間ドックや健康診断で胃の検診を受診してみましょう。